lapinchicの日記

色々思うままに書いていきます。

ハチミツとクローバー

普段、アニメを見ない層が見たくなるようなアニメを作ろうと、新しい試みで出来たフジテレビの深夜アニメ枠、「ノイタミナ」の第1弾だったハチミツとクローバー
その第1弾だけあってクオリティがすごい。24話+Ⅱ12話、ハチクロの世界をじゅうぶん楽しませてもらいました。
(竹本の声が阿良々木くんだ!)

第2弾はParadise Kissと女性漫画と続き、のだめとか人気女性漫画がいくつかあるけれど、最近はそういう傾向の作品はめっきりなくなり、オタクっぽい普通の深夜アニメだなぁと思ってしまう。 それだけに貴重。
 
いつものように個人的な前置き・・
かつてケーブルテレビに加入してた頃、なんとか元を取ろうと録画中毒のように沢山の番組を録画していた頃、やわらかい絵柄の美しい色彩のアニメがやっており、胸をつかまれるようなエンディングテーマ、スネオヘアーのワルツが流れ、なんだこのアニメは!と思ったのがハチクロとの出会い。
再度、再放送された時に全話録画したが、1話観た後はその後、観よう観ようと思いながら最近まで眠り続けていた。一体、あれから何年経ったのだろう。

1話の冒頭は大学近くの美大生ばかりのアパートから始まる。実はわたしは美術系の高校出身で、高校のクラスメイトの大半は美大生になった。わたしは美大でなく勉強の大学に行ったが、友達は美大生が多く、ムサビの友達の共同アパートに遊びに行ったことがあるのだけど、まさにこんなアパートだった。
その子は女性で、確か女子専用のアパートだったけど、古い木造加減とか、美大生ばかりの共同アパートとか似てる。ただし風呂は共同風呂があった。
作者もそれなりにわたしと年代近そうだし、もしかして同じ世界を知ってる人?なんて思ったのが1話の感想。
しかしソースはないが、そう思った私の心を覆すようにどこかの作者の言葉で、自分は美大生でなく、現実の美大生活はリサーチしていないというのを目にしたことがあった。なんだ違ったのか・・と思ったけど、作者も美術系高校出身なのを知る。クレジットにも協力、ムサビって出てくるし、雰囲気似てるし、きっと知り合いがいて、遊びに行ったりしてたんじゃないかな。
なんで美大生なんて、ドラマから遠く離れてそうな人種を選んだんだろう・・と思うけど、美術系特有のヘン感もありつつ、青春とからませ個性的な作品に仕上がったと思う。

ここからはアニメの感想・・
作者がタイトルをスピッツスガシカオのアルバムからつけたということから、挿入歌で1話目はスピッツのハチミツ、2話目スガシカオの8月のセレナーデと続き、1話に1曲づつ挿入していくのかと思いきや、ない回もあり、機械的でなく、メリハリをつけた曲の使い方をしていて、演出が細やか。13話から名曲ワルツから、奥田民生がらみのMistakeに切り替わり、それはそれで自転車をこぐ風景と後半の竹本の自分探しの旅と相まって、合ってはいたけれど、やはりエンディングはワルツが流れた時の高揚感が大きく、もう流れないのかと少し残念に思っていたら、最終話のエンディングはワルツとなり驚いた。絶妙の演出だと思う。
挿入歌で振り返るハチミツとクローバー - NAVER まとめ


話は事前調べで、片思いに特化したせつないストーリーだという。恋愛ものとして、かなり期待していたが、そんなに恋愛恋愛した作品では全くなかった。
どっぷり恋に憑りつかれているのは山田と真山くらいで、はぐも竹本も森田も想い人があれど、それにどっぷりつかってられる余裕がない。
また潜在的にはぐと森田は両想いなもので、真山も相手の傷が原因で受入れてもらえないだけで、いつ想いが実ってもおかしくない様子。なので、登場人物が皆片思いの漫画というには「?」という印象。

むしろこの漫画は恋愛でない関係に比重を置いているようにも思う。自分の才能を優先させるエゴの強い選択に見える、はぐの人生のパートナーを先生に選んだことや、竹本の「実らなかった恋に意味はある」の最後の名シーン、森田とはぐの惹かれあっていても一緒にならない関係などなど。

竹本がもしはぐといたいなら、折角見つけた宮大工の道は諦めなければならなくなる。全国を飛び回って修復する仕事なのだから。まだ社会に踏み出していない彼がそんなことしたら、はぐを支えるどころがヒモになってしまう可能性が高い。
竹本は就活が上手くいかず悩み多き時、卒業制作を作っている横で、色々横で気を遣って差し入れしているはぐの姿は全然目に入っていなかった。自分のことで精一杯で。そして、はぐのことは考えず、そのまま旅に出る。はぐに恋していても、はぐを守るゆとりはない。

森田も兄を苦しめた自分の才能がなかったらと、「何かを残さなきゃ生きてる意味がないなんて、そんなバカな話あるもんか。」と言いはぐに泣きついたりもしたが、余りある彼の才能をはぐを支えるために抑えて生きていくとするなら、あまりにももったいなく不幸な生き方に感じてしまう。
キャンディキャンディのアルバートおじさんを選択したラストがごとくの修ちゃんの選択は、驚きの結末に見えて、実は一番順当な結果だったのかもしれない。
(誰も選ばないというのが一番まともな結末のような気がするが・・)

恋する相手が1番でそれ以外が2番以下なんてそんなことはなく、順列のつかない大切な関係があって、それを名前やどういったものなのか整理しようとせず、ただありのままに大切なものとしてそこにあればいい。

そしてその大切なものとは、相手を思う気持ちに他ならない気がする。そしてその濃度の濃さの勝ち負けではないのだ。そういった気持ちはあればそれだけで幸せで、すごい事なのだと思う。
恋愛という魔物は、とてもよかった関係をお互いのエゴでドロドロにしたり、大切なものを失ったりもする。恋愛になる前はあんなにいい関係だったのにという二人が憎み合ったり、嫌いあったりすることもある。
そういったことを思うと、この作品にはそれがない。そう考えると非常に恋愛濃度は薄い作品だ。
読者(作品を観る側)は、作品の中に一杯落ちている名前のない大切な関係性を見つける、そして眺める、拾う。そして心に染み渡るまで感じる。そしてしまう。四葉のクローバーを見つけた時のように。

個人的な事だけど、車内で竹本がはぐからもらったハチミツとクローバーのサンドの包みを開けるシーンは泣くと同時に、名前がないことに苦しんでいた、過去に自分が持っていた名前の付かない大切な関係が供養された気がした。

漫画のセオリー通りのエピソードが少なく、主要人物同士がさほど関わらない、深まらないハチクロ。ちょっと距離感のある感じ。これがなんか美大っぽいなあなんて、個人的に思ったりする。

(☆蛇足だが、アニメを観た後すぐに映画版を観た。蒼井優のはぐや櫻井翔の竹本などは、ルックス雰囲気は再現されていているけれども、2時間に収められないからってオリジナルに改変し過ぎて、ハチクロのよさが全然出ていない別物になっていると思う。最後もスピッツのあと、嵐流すのは無しにすべきでしょ。原作ファンは嫌じゃないのかなぁ。)